2014年04月27日(日曜日)

ラ・フォル・ジュルネ新潟 2014

 毎年田植に基づく仕事の日程が許す限り楽しみにしているラ・フォル・ジュルネ新潟、今年はプレ公演及び本日一日、楽しんできました。今年のテーマはウィーン・プラハ・ブタペストの『三都物語』。オーストリアやハンガリーに由来する作曲家・音楽の特集です。例えば一昨日あったプレ公演での演目はドヴォルザークのスラブ舞曲やバルトークの民俗音楽舞曲、そしてブラームスのハンガリー舞曲といったように、並べただけでテンション上がるような曲達。今年もたくさん楽しめるといいなと期待して迎えました。

 一昨日25日のプレ公演は上記の演目で、演奏はオーケストラ・アンサンブル金沢。指揮は元々OEKの音楽監督である井上道義氏が振る予定だったのですが、氏が咽頭がんの治療で急遽入院・休養。そこで代役に立ったのが何と三ツ橋敬子氏。代役としては実に豪華なキャスティングです。思えば3年前、震災直後のLFJ新潟では来日拒否したドイツのオケの代わりに井上道義氏と仙台フィル、そしてダン・タイ・ソン氏が来てくれてベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演ってくれました。今回はその井上氏が舞台に立てなくなり、代わりに三ツ橋敬子氏が振る。何だか奇妙な巡り合わせですね。

 そして三ツ橋敬子氏の指揮を聴くのも自分は初めてです。あの細い体でダイナミックに踊る踊る。そのまんまフラメンコのバイレやれんじゃないか、ってくらいまあ情熱的。リズムの緩急を見事に切り取って、全身を使って音を導いていく指揮は民族舞曲を見事に生き生きと歌い、踊っておりました。OEKも小編成でスッキリした音ながらもこの濃ゆい民族臭が漂うプログラムを、肩肘張らずに歌心踊り心満載でカジュアルに楽しめるように聴かせてくれました。OEKは一度生で聴いてみたい地方オケだっただけに、ここで聴くことができたのは嬉しかったです。

 昨日は仕事のためLFJ新潟は個人的に一日お休み。最終日となる本日27日をまるまる楽しませてもらう所存でした。取っていたチケットは3つ。ハンガリーの民族音楽グループ ムジカーシュ、燕喜館でのマリナ・シシュによるJ.S.バッハとバルトーク、クルタークの無伴奏ヴァイオリンソナタ、そしてハンガリアン・ジプシー・トリオ。どれも濃そうな、クラシックというよりはむしろハンガリーの民族音楽を聴きに行くような風情の取り方です(笑)。

 まずは能楽堂でのムジカーシュ。これがいきなり最高でした。もうノリノリ生粋のハンガリー音楽で、客席から自然と手拍子・拍手が起こるテンション高い演奏。また、色々と不思議な楽器も披露してくれて、「へえ、こんな楽器があるのか」と感心したりもしました。ガルドンというはどこぞの山奥(よく聞き取れなかった)にしか使わっていない楽器なので英語の名前も日本語の名前もないそうで、チェロのような形をしているのですが旋律を奏でるのでなくストラップで肩にかついで弓で叩いて音を出す打楽器(!)です。最初「チェロの古い楽器が地方に残ってたのかな」と思って見ていたら、いきなり弓使って弦の部分をタンボーラみたいに叩きだす。「へえ、こんな奏法もあるのか。弦弾いたらどんな音が鳴るのかな?」とか思ってると、ずっといつまでも叩いてる。打楽器なのかと!そうなのかと!そのチェロみたいな形で弦も張ってあるのにオマエは打楽器なのかと!衝撃的な楽器でした、ガルドン。でも楽しかった。ムジカーシュが今日弾いた楽器は、なんともう200歳にもなるものなんだそうです。

 他にもフルヤというフルートを縦にしたみたいな楽器は、何と歌いながら吹く楽器だそうで、管で歌と楽器の音が同時に鳴って、まるでホーミーみたいに一つの音源から二つの音が同時に出る。リコーダーに近い楽器なのですが、わざと強く吹くことで尺八みたいなノイズを付け、さらに喉で歌うことで全体の音量を増しているそうです。これも非常に面白かったです。実音と倍音で2つ音が鳴るというよりは、歌も笛も実音でしっかり鳴る感じ。地味な音色ではありますが力強い。この楽器で何と2000年も前のハンガリーの音楽を奏でてくれたのだからたまりません。ムジカーシュ、ノリノリなだけでなく色々と歴史的にも面白い楽器・音楽を紹介してくれて、最高のステージでした。

   そんなムジカーシュでテンションを上げた後は一時的に家族と合流。LFJのお祭り的な空気を楽しみつつ屋台で食事など取り、午後からは燕喜館にてマリナ・シシュさんが奏でる無伴奏ヴァイオリン・プログラムです。J.S.バッハの『シャコンヌ』、バルトークの無伴奏、そしてマリナ・シシュの師でもあるクルタークの『サイン、ゲーム、メッセージ』よりの抜粋。燕喜館は去年も弦楽四重奏を聴きましたが、音の響きが少々デッドで豊かな残響といった要素は期待できない反面、演奏者の前、同じ高さに座布団に座って聴くという距離感が非常に近い会場のため、楽器の音がダイレクトに伝わってくるのは魅力です。何よりも右手に見える素敵な和の庭園を眺めながら、こんな金屏風の前でマリナ・シシュさんみたいなきれいなフランス人が演奏するなんて、日本人の文明開化ゴコロをくすぐてくれるじゃありませんか。

 マリナ・シシュさんはLFJの運営から「バルトークの無伴奏を中心にプログラムを」と言われた時、すぐにバッハのシャコンヌとクルタークの音楽が頭に浮かんだそう。バルトークはバッハを参考にしたし、ハンガリーの作曲家であり師・クルタークは両者と関係があると。 バルトークの無伴奏を中心にその前の時代であり当然バルトークの無伴奏にも影響を与えたであろうJ.S.バッハの無伴奏と、バルトークより後の時代のハンガリーの作曲家で当然バルトークから影響を受けたであろうクルタークの無伴奏を並べる。その無伴奏ヴァイオリンの歴史を俯瞰するような選曲はなかなかに興味深かったです。マリナ・シシュさん曰くクルタークの音楽は「まるで禅のようで、より少なく語ることでより多くを語る。今日演奏された短い曲達は、まるで俳句のように少ない音数で多くを語る」と。この話を聞いて何となく思い出したのはブローウェルの『俳句(警句による前奏曲集)』。この曲は一度、ゆっくりと聴き直してみたいなと思いました。

 燕喜館でのコンサートが終わり、手持ちのチケットの最後であるハンガリアン・ジプシー・トリオまでは大分時間がありました。そこで急遽参戦することにしたのがコンサートホールで行われるドヴォルザークのチェロ協奏曲。オーレリアン・パスカルの独奏、大友直人指揮 群馬交響楽団の演奏です。こうして思いついたらフラッとコンサートに行けるのがLFJの醍醐味ですよね。

 ドヴォルザークのチェロ協奏曲、自分は実演どころかCDでも滅多に聴かないから実に久しぶりに聴きました。どのくらい久しぶりかって、正直どんな曲だったかまったく思いだせないくらい久しぶりですが、いやさすがドヴォルザーク、琴線にふれる暖かい美旋律がこれでもかと。ブラームスが「ドヴォルザークがゴミ箱に捨てた旋律を拾い上げて自分の曲に使いたいくらいだ」と言ったのも思わず納得する、しみじみと琴線に触れるメロディーの素敵な曲。パスカルのチェロはその暖かく胸にしみる美旋律を、明るい音色で素直に引き込むように聴かせてくれました。濃ゆく歌い回さないのがかえっていいんだ、これが。そして群馬交響楽団の白髪のフルートの人と隣のクラリネットの人、とてもうまい!丁寧に的確にパスカルのチェロを支えてました。これは聴いて正解、大当たりのコンサートでございました。

 今年のLFJ新潟、自分のシメはハンガリアン・ジプシー・トリオです。ジプシーとは言いつつも、グレッチのギター(ヴァイオリンと交代で持ち替える)とベースにキーボードで普通にジャズ・トリオみたいな音楽。モルダウやりますとか言いつつ、すぐにアドリブ始めて最後にとってつけたようにまたモルダウに戻ったりする辺り相当にジャズ。ハジけるヴァイオリン/ギターに、クールにグルーヴするベースがカッコいい!『枯葉』も演ってくれて、それはホントにカッコよかったんだけど、やっぱり民族音楽じゃなくてジャズなんじゃん!と。パンフにはしっかり「民族音楽」と書いてあるのですが、なかなか看板に偽りあり(笑)。でもいい音楽だからいいのです。民族音楽の要素もちょっと取り入れたジャズ・トリオ、ノリノリで楽しませてもらいました。

 今年のLFJ新潟は個人的にはとにかくハンガリー!ハンガリーの民族音楽も、それを元にしたクラシックも、実に濃い密度で楽しませてもらいました。色々珍しい楽器も知れたし、J.S.バッハからバルトーク、そしてクルタークへとつながる無伴奏ヴァイオリンの流れも感じられたし、ドヴォルザークのチェロコンは実は名曲だということも思い知ったし、オーレリアン・パスカルというチェリストも収穫だったし、最後はグルーヴ感最高のジャズでシメられたし、一日とことん楽しませてもらいました。また来年も楽しめるといいな。また、来年も新潟でやってくれるんですよね、LFJ…?今から楽しみにしてます。

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