2011年01月22日(土曜日)
意外と思われるかもですが、たむらぱん
- ayum
- 10:41
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- カテゴリー:アルバムレビュー
最近たむらぱんというアーティストにはまっている。たむらぱん。まだ知名度的には知っている人は知っているというレベルだろうか。が、このたむらぱん、実にいい。いつ以来かわからないくらい久しぶりに女性VoのJ-POPにはまっている。
元々はFM新潟で『ラフ』がよく流れてきて、そのサビのメロディーがとにかく耳に残って離れなくなったのが始まりだ。そこでとりあえずiTunes Storeでその曲だけ買ってじっくり聴いてみたわけだが、仕事をしながらラジオで聴くのではなく、じっくりと聴いてみてとにかく驚いた。サビだけでなくAメロからすべてのメロディーも、そのアレンジも歌もすべてのクオリティが尋常じゃなく高い。あまりに衝撃を受けたので、今度はアルバム『ブタベスト』を聴いてみた。これがたむらぱんのメジャーデビューアルバムとのことだが、やはり全曲そのメロディーもアレンジも丁寧でよく考えられていてクオリティが高い。あっという間に通勤中のBGMのヘビーローテーションになってしまった。
たむらぱんの魅力はよく言われるようにやはりまずはその柔らかく親しみやすい珠玉のメロディー。しかもサビだけがいいのではなく、AメロBメロと言わずに思わず口ずさんでしまいたくなるメロディーばかりが曲をつないで一つの曲が出来上がっていく。だから彼女の曲に「サビはいいけど他はちょっと・・・」という曲はない。しかも一つのメロディーから次のメロディーへ、ちょっと想像できないつながり方で進んで行く。聴きながら「え?こうつながるの?」といった意外さが聴いている側をドキドキさせる。そしてそれがすべて違和感なくつながっていく。
そしてそのメロディーを引き出す巧妙なアレンジ。たむらぱんはアレンジからプロデュースまですべて自分で手掛けているとのことだが、このアレンジが実に素晴らしい。とにかく同じ旋律を同じ形では絶対に登場させない。静も動も使い分けて、曲の始まりから終わりまで聴いていて常に期待をいい意味で裏切るような意外性に満ちた進み方をする。転調や変拍子を多用しているわけでもない(もちろん多少はある)のに、音とリズムの使い方を変えるだけで曲の先が読めない面白さ。ここが私がたむらぱんにはまった最大の理由かもしれない。Dream Theaterといい、そういう意外性の音楽は好きなのだ。かの大指揮者フルトヴェングラーは、音楽で一つの主題が提示された後に様々な展開や変奏を経てまた主題に戻ってくる時、その主題は最初に提示された時とはまったく違った形で響かなければならないと言った。何故ならその主題は再び登場するまでに音楽的にも時間的にも様々な経験を積んでいるのだから、その経験の分だけ主題は変わっているはずなのだからと。たむらぱんの音楽にもそのような音楽自身による音楽の成長が感じられる。同じ旋律が同じ曲の中で出てきても、決して同じようには響かない。それはアレンジ面でもそうだし、歌唱面においてもそうだろう。
たむらぱんの歌の魅力はわかりやすいと言えばわかりやすい。透明できれいに伸びる高音と、曲により様々な表情を見せる表現力。曲によく合ったその歌声は実にチャーミングだ。個人的に気に入っている点は、彼女が声にビブラートをかけるかけないを恐らくはかなり意識的に使い分けている点だ。そして最近のR&B系の歌手のように深く大きいビブラートはほとんど使わない。それが彼女の"透明できれいに伸びる高音"をより一層効果的にしている。ビブラートは音を揺らして深みや艶を出す、と一般には簡単にそう言われているが、ビブラートのかかった音が"いい音"とは単純には直結しないことを意識している人は少ない。ビブラートは音を揺らすわけだけら、どうしたって揺らした分だけ音は不協する。不協する分周囲の音からは引き立つし、使い方によってはその不安定な響きが艶となるわけだが、純正律的な響きの美しさとは決して両立しない。つまりビブラートは使い方によっては旋律の強調や艶っぽい響きと引き換えに、音楽全体の響きの美しさを壊すこともあるわけだ。だからビブラートは声に限らず楽器においても使い所と使い方が重要になる。そこを意識せずにクセだけでビブラートを使う歌い手や弾き手は多いが、たむらぱんはそうではない。曲の中で透明な響きの歌声がほしいところではビブラートを使わず、素直に声をすっと伸ばす。それがまた音楽に溶け込んで実にきれいに響く。この歌はかなりクセになる。
アルバム『ブタベスト』ではまず最初の曲『責めないデイ』にいきなりKOされた。どこか懐かしいピアノの旋律から入るこの曲は、たむらぱんの魅力であるトントンと旋律も曲調も転がって行って先が読めない意外性に満ちた面白さも、透明できれいに伸びるチャーミングな歌声も堪能できる名曲だ。最後たたみかけるように「♪〜今日もヨシ、それもいいよ」と繰り返し呼びかける部分はとても印象的に耳に飛び込んでくる。2曲目『ぶっ飛ばすぞ』ではちょっとスピッツを彷彿させるシンプルで明るいロックナンバーと思いつつ、イントロから続くキーボードのUFO的な響きの音が周りの歌や伴奏がすべてブレイクかけようと何しようと延々と淡々と同じ調子で続くというツッコミどころが用意されています。そして大好きな3曲目『へぶん』。これも聴き始めは「♪平凡だ、平凡だ」で始まる軽快なガールズロックチューンと思いきや、序盤も序盤、最初のAメロでいきなりまさかのキーアップ。「え!? そこでいきなり転調ですか!?」と突然ド肝を抜かれる素敵なアレンジ。全然平凡じゃない。この曲はその後も犬の鳴き声や車の急ブレーキ音等の効果音を取り入れながら素敵に盛り上がっていく。軽妙な6/8拍子のリズムに心地よく揺られながら、ゆったりと聴き手を空に引っ張っていくようなたむらぱんの透明な歌声が堪能できる夢見心地な名曲『ノバディノウズ』に、曲が進むにつれて音が洪水のように溢れていき、最後はアップテンポなポップチューンなのにアップテンポなままこれまでと同じ旋律が感動的にすら響く『フロウハロウ』。やさぐれ気味な牧歌的旋律で「♪ヘイヨー、メイヨー」と始まりながら幾度もの曲的展開を経て最後は抒情的な響きと足取りで終わっていく『ヘイヨーメイヨー』。アルバムの最後にたむらぱんが敢えてアレンジを控えめにしてピアノ弾き語りと少しのストリングスだけで歌い上げる3拍子の名曲『回転木馬』。この『回転木馬』は歌詞の世界もなかなか好き。共感できるというよりは、こういう感じが好きだ。総じて、まるでパステルカラーのふわふわした万華鏡のような音楽世界。音の気持ちよさと展開の意外さに驚きながら、面白く気分良く、時にじんわりしんみりとしながら聴いているうちにあっという間にアルバム一枚が終わってしまう。デビューアルバムでこれだけのクオリティを持つたむらぱん、恐るべしだ。
彼女は作詞・作曲はおろかアレンジもプロデュースもアルバムで使用するイラスト等も自分で手掛け、MySpaceでの活動から初めて日本人としてメジャーデビューしたという経歴だけを見ても怖いくらいのマルチな才能に満ちたアーティストだと感じる。これだけの才能は日本の音楽界にはJ-POPに限らずともそうそう見当たらない。歌詞の世界が中学・高校生にも受けるものというよりは比較的若い社会人向けに感じるものが多いので、幅広い世代の支持というのは受け辛く、爆発的なセールスを記録するということは多分ないと思うのだが(売れるためには世代を超えた支持が必要)、純粋に音楽面で見た場合にこれだけの才能が日本に出てきたことは凄いと思う。今後もその活動は注目していきたい。とりあえずは最新アルバム『ナクナイ』でも買うか。
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聴きツボに共感してしまいました。
『ぶっ飛ばすぞ』のキーボードパターンのリピートと途中のハウリング的な高音が印象的。
それと文中の・その主題は再び登場するまでに音楽的にも時間的にも様々な経験を積んでいる・に納得!
どんどん変化していきますもんね。
ちょちょらに歌おうと思っても、そうはいかないって感じ。
変な意味ではなくて、色々な音楽(ジャンル・年代)を経験している人にはことさら楽しめますよね。
きっかけがあれば、音楽に強烈なこだわりがある人は、はまるのは必至。
歌詞については全てに共感できるわけでもないし、ピンと来ない楽曲ももちろんあるのですが、アレンジはどれも楽しい。(チャリンコは個人的にピンと来ない・・)
と、長文すみません。
はじめて、たむらぱんのレヴューで共感できる文章を見たので嬉しくなってしまいました〜。♪
コメントどうもありがとうございます。
聴きツボに共感・共有できるのはこちらも嬉しいです。
『ちゃりんこ』は私もあまりピンと来ないのです。
いい曲だとは思うけど、何というかこの曲ならたむらぱんでなくていい。
素直すぎる(爆)。
やっぱりネットでたむらぱん好きな人のブログとか見て回っていると、
ロックだのJAZZだのクラシックだの、普段J-POPはあまり聴かない感じの人が
何故かたむらぱんにだけははまる、って感じが多いようですね。
音楽が好きで演っているか聴きこんでいるかしている人ほど、
聴くとその楽曲のクオリティの高さに気付くんだと思います。
新曲『ファイト』も近々聴けるようになると思いますし、彼女の今後の活動が楽しみです。