2011年02月20日(日曜日)

『さよならニッポン農業』神門 善久 著

この『さよならニッポン農業』はまず明治から平成の鳩山政権までの農政を俯瞰しつつ、日本の農業、特に農地利用がどのような理由で無秩序化し、競争力を無くしていったかを冷静に分析し、提示して見せてくれる。単純に農政の歴史の勉強としても役立つし、それ以上にその農政によって人の意識がどのように変わり、どのような行動・結果につながっていったかという因果関係をはっきり説明してくれるので非常に腑に落ちやすい。

本書が一番の警鐘を鳴らしているのは転用や耕作放棄を含む農地の無秩序な利用。最終的には規制緩和の名の下にそれこそ農地をだれでも自由に取得して自由に利用していいという形になることを警戒する。この無秩序な農地利用に国や地域が歯止めをかけ、農地に競争力を与えることでこそ農業の復興の可能性と説く。ここでいう"競争力"とは世間一般で叫ばれる規制緩和により誰でも農地の取得・利用をできるようにするという見せかけの自由競争ではない。それでは無秩序化がさらに進む。土地利用の方法や手法を細分化して規定化した上で、その規定に沿って土地利用をする限りでは土地の利用権のやり取りを自由化するという方策を提言する。それにより土地利用の無秩序化を抑止しながら価格面での自由競争を促進するわけだ。その際の前提として農地基本台帳を法定化し、平成の検地をおこなって農政を策定・運用する際の基本情報を整理する必要があるというが、これには強く同意する。そもそも自分の農地の権利関係が自分でもわからずに困っている農家も多いのだから。

著者はその他にも無秩序化を抑止するための様々な意見を述べているが、一貫しているのは現状での無秩序な農地利用のままでは日本農業に未来はないということ。その意味で本書のタイトルは『さよならニッポン農業』なわけだ。まだTPPという話が大きくなり始める前に出版されているので本書中にTPPという言葉こそ出てこないが、ドーハ・ラウンドやFTAを視野に入れつつ、貿易自由化の際の影響も視野に入れており、その提言は貿易自由化への対応としても有効と感じる部分も多い。現状をみると非常に理想論的に思えるが、論拠が完全なまでに現実的なだけに現状への悲嘆と将来への可能性をどちらも感じる本だ。

この本は農家ならずとも農業界に身を置く人間としては耳に痛い言葉も多い。だが、感情的にでもなく、行政やJAへの批判というわけでもなく、冷静に歴史と現状を分析して問題点と解決案を問いかけてくる本書は非常に説得力がある。是非一人でも多くの人に読んでもらいたい本だ。

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・・・と、ここまで書いてFacebookのリンクを使って書評として登録しようとしたら文字数オーバーと言われた(苦笑)。どうやら420文字しか書けないらしい。短いな・・・。なので、とりあえず原文はこの雑記帳に記載して、Facebookには抜粋版を掲載。もう子供達が起きるから、後でBLOGをFacebookに反映する方法を試してみよう・・・。

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» †慣†††整††楮e

  • 2015年02月04日 15:29
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  • 2015年02月07日 00:51
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