2008年03月09日(日曜日)

日本経済分岐点

 サブプライムローン問題とそれに付随する世界的な金融信用収縮問題で、やたらと経済に関する暗いニュースが耳に入ってくる昨今。アメリカが景気後退局面を迎え、世界経済もどこまで減速して行くかが不透明な中、個人的には日本も今一つの分岐点に立っているように思う。これまで"実感を伴わない"と言われつつも景気拡大を続けてきた日本が、現状維持から比較的傷の浅いマイナスか、あるいは運が良ければプラスに経済と国際的な立場を持って行けるのか、あるいはまた今度は"実感を伴う"本格的な不況に入って行くのかの分岐点だ。その一つのキーポイントはやはり日銀総裁人事の問題にある。端的に言うと日銀総裁の座に空席が生じるかどうかだ。もう一つは外部要因による急激な為替の変動。これは日銀総裁の問題に決着が着く前に、外部要因でどこまで円高が進むかだ。少しばかり、考えてみよう。

 日銀総裁人事の問題に関して言えば、結論は単純に一つだ。たとえそれが短いものであっても空席は生じさせるべきではない。この世界的な金融不安の情勢の中で日銀総裁が空席になることは、諸外国から見た場合は日本という国自体の信用に対する大きなマイナスとなる。与党とか野党とかいう問題ではない。日本という国に対する信用だ。アメリカではFRBが、EUではECBが、このサブプライムローン問題に端を発する信用不安とインフレの挟み撃ちにあいつつも中央銀行として必死の舵取りをする中、日本だけはその舵を取る中央銀行の総裁が決まりませんでしたというのでは洒落にもならない。諸外国から見ればそんな国に資金を投入するのは愚以外の何者でもない。日銀総裁空席となれば、東京証券取引所の7割の売買を占める海外の投機家達は一斉に資金を引き上げて行くだろう。市場がどんなに動乱しても市場の舵を取るべき中央銀行の総裁が不在の国になど投資はしたくない。最悪の場合、日銀や政府による為替介入はできないと踏んだ投機筋が、巨大なドル売り円買いをしかけてくるのではとの見方もある。その場合、1ドル100円を切るような円高へ一気に進み、最悪、日本の金融は破綻する。かつてイギリスを襲ったポンド危機はジョージ・ソロスという投機家が一人で(もちろん厳密には彼が運営するファンドが、だが)引き起こしたということを忘れてはいけない。結局ソロスはイギリスをEU(当時ERM)からの脱退を余儀なくさせるまで追いつめた。通貨危機は起こりえる。ポンド危機の後のアジア通貨危機も、構図としては似たようなものだった。日本円では起こらないと考える理由はない。特に中央銀行に為替介入を行う舵取りをするべき総裁がいないタイミングならなおさらだ。

 まぁ、実際はそこまで極端な危機の可能性は低いと見るが、日銀総裁空席が海外資金の日本からの撤退を招くのは間違いない。日銀総裁空席が決まるまでの間に、仮にアメリカの信用不安が増大して円が1ドル100円台あるいはそれ以上まで上がっていたとしたら、海外資金流出に伴い株価は急落するだろう。その場合、今後二、三ヶ月で日経平均が10,000円を割る可能性もゼロではない。この程度のシナリオは十分あり得る。そうすると日本経済は輸出企業の為替差損による大幅減益と個人・機関投資家を問わない大幅な運用資金のキャピタル・ロス、そして(日銀総裁人事の問題とは無関係だが)現在の情勢として不可避的に襲ってくる物価の上昇、といった要因から一気に景況が悪くなる。不景気の到来だ。

 しかるに、気に入らないのは日銀総裁人事を政治の道具にしている今の政治家達だ。与党も野党もどちらも気に入らないが、この件に関しては特に野党だ。確かに日銀総裁人事提出までの与党のやり方は色々とまずかったし、政局として今が政権奪取のチャンスだということは理解できる。だが、ここまで世界的に経済情勢が不安定な中、日銀総裁人事を政治の道具にしてしまうことはどうだろう。日経新聞のコラムでも、日銀総裁人事は政局と切り離した上で独立して与野党協調して進めるべきだとの論があった。これに強く賛成だ。野党が主張する財金分離に与党が提示した人事が合わないというのなら、せめてこれなら妥協できるという代案を提示すべきだし、私がこれまで書いてきたようなリスクを考慮した上で、そのリスクを取った上で何故今なお財金分離を実現すべきなのか、それが実現されないことによるリスクは日銀総裁空席というリスクより大きいのかということを説明するべきだ。世論ばかり気にして、どのようなアクションを取ったら日銀総裁空席という結果を招いたことに対する批判を軽減でき、なおかつ与党の信用を落とすことができるかばかりを考えているようでは有権者を馬鹿にしているとしか思えないし、国のためを考えているとも思えない。本当に国のためを考えているのなら、最低限日銀総裁空席のリスクより財金分離が実現しないことにより生じるリスクが大きいことを説明・証明するべきだ。私には財金分離が実現しないことにより生じるリスクがそこまで大きいようには到底思えない。

 結局、与党とか野党とかではない。今は政治が腐っている。国のため、国民のためと口では言ってみても、我が身のことばかりを優先する政治家ばかりだということだ。そうではないというのなら、最低限私が求めた説明・証明は提示するべきだ。かつて日本にも大志を持った政治家はたくさんいた。板垣退助が、大隈重信が、今の政治を見たら一体何を思うのだろうか。今、日銀総裁人事問題は、私が日本の政界そのものに対して(非常に強く断固とした)不信任を突きつけるかどうかの試金石になっている。願わくば、まだ政治にも志はあったと安心できる結論をこの問題では望みたい。

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