2004年10月02日(土曜日)

Jesus Crist Super Star

 半期末の久々怒濤の忙しさも、多少の余波は残るもののどうにか落ち着き、今日は一日ゆっくりと休んでいました。そしてやっと楽しみにしていたDVD、『ジーザス・クライスト・スーパースター』を観ることができました。いや、9/24発売で、Amazonで買って発売日当日に手元には届いてたんですけどね、あまりに忙しくて観れませんでした。以前に劇団四季の『ジーザス・クライスト・スーパースター ~エルサレム・バージョン~』を観て以来その音楽の虜になった私は、今回のDVD化を非常に楽しみにしていたのです。

 一応説明しておくと、このミュージカルの作詞・作曲はティム・ライス&ロイド・ウェーバー。『CATS』や『オペラ座の怪人』の作者として有名なこのコンビの出世作となったもので、『ウエスト・サイド・ストーリー』、『サウンド・オブ・ミュージック』に並ぶ3大ミュージカルとして1971年の初演以来全世界で上演され続けている金字塔です。ミュージカルにロックの要素を大胆に取り入れ、"ロック・オペラ"という新たなジャンルを切り開いたという意味では2000年以後に本格的に出てきた様式美形ロックオペラはもちろん、その先駆けのクイーンなんかより遥かに時代の先を行っていたわけです。さらに面白いことにこの作品、上演より先に1969年にまず音楽アルバムの方が先にリリースされているのです(ちなみにその際のイエス役はDEEP PURPLE等での活動で名を馳せる、かのイアン・ギラン!不滅の名盤『Live in Japan』での熱唱を鑑みるに、さぞかしクレイジーなイエスだったことでしょう・・・)。そしてそのアルバムが見事に売れて、当時まだ無名だったティムとロイドの上演資金ができたというのは有名な話。上演より先にアルバムだけ出して、しかもそれが売れてしまう程音楽のクオリティが高いわけです。

 話は新約聖書、イエス・キリストが磔に処されるまでの最期の七日間をミュージカル化したというもの。といってもその視点は救世主としてのイエスではなく、人間としてのイエスであり、ユダであるのです。崇拝するイエスの教えが歪んだ形で大衆に広がっていくことや、マグダラのマリアの愛の中に無条件で沈んでいくイエスを憂い、何度も昔の理想を思い出せとイエスに問うユダ。「誰も私を理解しない」と頭を抱え、自らを待つ死の運命を悟り、その死を恐れ、闘い、「死を乗り越えるには死ぬしかないのだ」「神よ、何故あなたは私を見捨てたのですか」と叫ぶイエス。そこにいるイエスやユダは神でもその子でも救世主でも使徒ですらなく、ただ一人の人間です。実に人間として生々しいのです。理想の挫折と裏切りに苦しむユダ、救世主としての恍惚と重圧、死の苦痛を抱え込んだイエス、自分でも制御できない愛情と残酷な運命に引き裂かれるマリア、後に責められるのを恐れ、できればイエスを処刑したくないものの大衆の重圧に負けて最期には磔を命ずるピラト・・・。彼らの誰もが英雄ではありません。等身大の人間です。それがこの作品の魅力であり、初演後30年を経た今も繰り返しリバイバルされ、リメイクされていく普遍性の所以なのだと思います。劇団四季の浅利慶太氏は1973年の劇団四季版初演の際、この作品に心をひかれた理由として以下のようなことを言っています

 人類の歴史には釈迦とか、イエスとかマホメットとか、偉大な予言者達が登場してきました。実際のその人達の生の現実は、後の世の人達のイメージではとらえられぬほど、なまなましく、激しく、それ故に輝かしかったと思います。生きとし、生けるものとしての愚かしさも持っていたと思います。

〜中略〜

 偉大な指導者や予言者達の傍にはつねにより添うように或る人物が登場してくる。人間的で、冷静で、理知的であるが故に、魂の中の傷をかくしている人間です。この両者は光と影のような相関性を持っています。

〜中略〜

 この人たちは大きな役割のなかで常に謎のある生き方をしている。疑問符のつくような人生をいきているからです。したがってこの人たちは常に文学的テーマを刺激します。文学者の挑戦する対象となります。

 さてこの作品、ミュージカルから映画まで色々な団体が上演、リメイクをおこなっておりますが、解釈や見せ方が各々かなり違います。例えば舞台設定だけ見ても、私が見た劇団四季の『エルサレム・バージョン』やノーマン・ジェイソン監督の映画版は当時のエルサレムを舞台に比較的正統的なイメージで見せてきますが、同じ劇団四季でも『ジャポネスク・バージョン』になると役者全員歌舞伎調のメイクをして、和服っぽい出で立ちに竹槍なんかで立ち回ります。そして今回DVD化されたゲイル・エドワーズ監督のリメイク版では舞台は現代。イエスはチノパンだしユダはTシャツに革ジャンだし、シモンはGパンに海兵隊カット(?)のさわやかティーンズだし、もはや何でもアリです。舞台をどこのどの時代に移しても色褪せることのない普遍性がこういった形でも証明されています。

 これらの作品の中で私が知る限りでは音楽のクオリティはアンドレ・プレヴィンが音楽監督をしているノーマン・ジェイソン版が一番クオリティが高いですし(これは映像は現在絶版、サントラのみ流通中)、舞台としてよくまとまっているのは劇団四季版だと思います。今回のゲイル・エドワーズ版はユダとイエスの確執をもの凄く鮮明に打ち出していて、最後の晩餐での彼らの口論の場面やその後のゲッセマネの園でのイエスの独白の迫力は凄まじいものがありました。対して、現代的な卑俗さの強調の仕方もまた強烈で、人によってはそこが多少鼻につくかもしれません。ですが、このエドワーズ版の現代という舞台設定は作品の世界観的には実は至極妥当なようにも思います。というのは、最期のクライマックス、主題歌『スーパースター』を歌いながらユダがイエスに語りかけるように、「イエスは本当に聖書が語るような英雄だったのか」というのがこの作品の根底を流れるテーマだからです。『スーパースター』の歌詞の中で、現代に転生したユダはイエスにこう問いかけます。「もし世を救いたかったのなら、何故メディアも何も発達していないあの時代のあの場所を選んだのですか?この現代ならメディアも発達しているし、あなた程のカリスマ性があれば世界を手中にすることもできたでしょうに」と。この辺りが初演時に「冒涜だ」とあらゆる宗派から直接会場前で抗議のデモを受けたというところにもつながってくるわけですが、まさにそこがこの作品の価値でもあります。「どんな英雄でも、結局はただの人間だったんですよね」と問いかけ、またその人間という側面を浮き彫りにすることによって生というものの再認識を図る。それがこの作品なのだと思います。そしてジェイソン版は『スーパースター』の問いかけに対する一つの答えという形で提示されたものではないでしょうか。もし、イエスが生きた時代が現代だったら。彼は、聖書とは違った生を送ったのでしょうか。

 最期に、この作品の魅力溢れる音楽達について。ミュージカルにロックの要素を取り入れて"ロック・オペラ"という(今じゃ割に普通に耳にするけど)1970年当時前代未聞の領域を切り開いたこの作品。正直、あれはロックの範疇超え過ぎです(爆)。いや、やりすぎなんですよ。ロックというには複雑すぎるんです。1980年代に入ってDream Theaterが出てきてからはああいった転調や変拍子がガンガン出てくるロックも一般的になってきましたが・・・。ああ、でも1969年には『LED ZEPPELIN 2』は出てるから、その意味ではギリギリ普通に前衛的なだけとも言えるのか・・・。でも普通にディストーションかかったエレキギターが七拍子でギンギンにリフ刻み続ける曲とかあるしな(爆)。まぁその時代的是非はともかくとして、その『The Temple』という曲は個人的には前半最大のハイライトの一つだと思います。イエスの宮殿に突然現れた盗賊商。卑俗な欲望が渦巻くその光景を見て激怒したイエスが怒髪天の勢いで全員を叩き出し、一人嘆きます。そこに嘆く暇もなく一人、また一人と「病を治してくれ」「人生を変えてくれ」とイエスの口づけを求め群がってくる人々。盗賊商のマーケットの賑わいを表すギターのリフレインからイエスの苦悩の独唱、そしてその苦悩を突き破り、一人、また一人と救いを求めるものが現れる度に最初のギターリフがアッチェランドをかけて戻ってきて、最期にはイエスを飲み込んでいくドラマチックでスリリングな展開が素晴らしい名曲・名場面です。そしてその後に続く有名なマリアの独唱『I Don't Know How To Love Him』も美しい曲ですし、高価な香油を塗ってイエスを休ませようとするマリアに、もっと民のことを考えろと怒りをあらわにするユダ、その二人にイエスも混ぜた三人の駆け引きが見事な『Everything's Allright』も個人的には好きな曲です。そして後半の始め、これまでの日々を歌う使徒達の合唱から入る『最後の晩餐』は、「そのワインは私の血、そのパンは私の肉」と歌い、最期の時が近づいていると告げる悲嘆のイエスと、「どうしてこんなことになってしまったんだ」と思いのたけをぶちまけるユダ、その裏で続く使徒の合唱、それらの組み合わせがとてつもない緊張感と美しさを持つ曲です。これと続く『ゲッセマネ』は今回のDVDのものが一番いいですね。感情の吐露が非常に生々しくていい。そして誰もが一度は聴いたことがあるであろう主題歌『スーパースター』。他にも魅力ある音楽達を聴いているだけで舞台が終わってしまうような名曲ばかりです。

 相当な勢いで長くなってしまいましたが、この『ジーザス・クライスト・スーパースター』、素晴らしい作品ですので機会がありましたら是非触れてみてください。ちなみに、新約聖書のあらすじくらいは知っておいた方がより一層楽しめると思います。熱心党とかペテロの否認とか。

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