解説:シャトル事故、ついに破局に至った「スジ」の悪い設計

 コロンビア空中分解の原因調査は続いている。最初のうち、米航空宇宙局(NASA)は耐熱タイルが打ち上げ時の断熱材衝突で破損した可能性があるとしてきた。地上カメラからの映像で、打ち上げ時に外部タンクからはく離した断熱材が左翼に衝突するのが映っていたためだ。しかし、2月5日の記者会見では「シミュレーションの結果、断熱材の衝突程度でタイルが破損したとは考えにくい」と見解を変えた。また、交信途絶後も32秒間、ノイズ混じりの計測データが地上に送られてきていたことも公表した。信号を復元するべく分析中という。

 現在のところ明らかなのは、交信途絶7分前から、左翼の各部に取り付けられた温度センサーが急激な温度上昇を検出した後で信号が途絶したこと、そして途絶直前に機体左側の空気抵抗が増大して機体姿勢が崩れ、自動操縦システムがまず翼後縁の補助翼、次いで機体右後部にあるスラスター噴射で姿勢の復元を図ったこと――それだけである。

 しかし、それでも今回の事故で改めて明らかになったことがある。スペースシャトルという機械の、コンセプトと設計の両面における「スジ」の悪さだ。

●「良い機械設計」の原則をすべて破る

 良い機械を設計するには、まず「何をする機械か」という目的を絞り込んで設定する必要がある。その上で目標実現のための仕掛けを、なるべく技術的に無理がないシンプルな形で組み合わせていくのだ。スペースシャトルはこの原則をすべて破っている。

 まず目的だ。スペースシャトルは目的を全然絞り込んでいない。なんでもできる万能宇宙輸送システムなのである。人も貨物も運べる。貨物を運ぶペイロード・ベイに今回のコロンビアのように実験室を装着すれば宇宙ステーションの代用品にもなる。なんでもできるというのは聞こえがいいが、実態はすべてに中途半端な五徳ナイフだ。五徳ナイフは小さく携帯性に優れ、どんな状況でも「ないよりまし」という利点を生み出すが、シャトルは小さくすらない。目的がぼやけている以上、それを実現する設計も美しくシンプルなものにはならない。

 例えば、主エンジンを装着するオービターは何度も利用する。外部タンクは使い捨て、2本の固体ロケットブースターは海上に落ちたものを回収して推進剤を詰め直して再利用する。使い捨てと再利用が混在しており運用手順が複雑化してしまっている。

 また、巨大な翼は帰還時の1時間程度しか使用しない。打ち上げ時も軌道上でも翼は完全な「お荷物」である。シャトルを航空機と混同している向きもあるが、実は打ち上げ時は「航空機の形をした荷物」で、軌道上では「航空機の形をした衛星」、実際に航空機として機能するのは帰還時のみである。

 そして今回の事故にもっとも関連がありそうな問題点は、その帰還時にしか使わない巨大な翼の下面を、もろく壊れやすい耐熱タイルで覆わなくてはならないことだ。耐熱タイルの大幅な破損は軌道からの帰還を不可能にする。つまり耐熱タイルの状態はミッションの成否に直接影響する。にもかかわらず、耐熱タイルは打ち上げから帰還直前まで、一切保護されていない。風が吹き雨が降る地上から、真空の宇宙空間までの極端な環境に直接さらされるのである。

 しかもシャトルは耐熱タイルで覆われた機体下面に5カ所もの構造的な弱点となる「開口部」を持っている。前脚収納部、主脚収納部2カ所、そして外部タンクから主エンジンに液体酸素と液体水素を供給するパイプを接続するための配管コネクター部2カ所だ。左主脚収納部の扉が事故原因として疑われているのは報道の通りである。なお、あまり知られていないが配管コネクター部の扉は、打ち上げ時には開いており、外部タンク切り離し後に閉じるようになっている。何らかの原因で扉が閉じなければ、それだけでシャトルは危機に陥る。

●シャトルは「万能」でなくてはならなかった

 このような設計上のスジの悪さは、すでに1986年1月のチャレンジャー事故の時点ではっきりと認識されていた。しかしその後NASAは、機体の改造と運用上の注意でカバーしようとした。これまでの17年間、致命的な事態を起こさなかったことからして、NASAの努力はある程度成功したと言えるだろう。しかし、再度事故は起きた。設計上のスジの悪さを運用でカバーすることには無理があったのだ。NASAが巨費を投じてそのようなスジの悪い宇宙船を開発してしまった背景には様々な理由がある。そもそも地球周辺軌道を飛ぶだけの宇宙船を、月までを往復するアポロ宇宙船と同じ規模で考えてしまったこと。アポロ計画以降宇宙開発に冷淡になった米議会から開発に必要な予算を獲得するために、「なんでもできます」と宣伝しなければならなかったこと。それでも足りない分を国防総省が出すことになり、軍事目的に使うため設計へあれこれ口を挟んだこと――いずれにせよNASAにとって完成したシャトルは「なんでもできる万能宇宙輸送システム」でなくてはならなかった。でなければNASAが嘘をついたことになってしまうからだ。

 それでもチャレンジャー事故以降、様々な後継機種候補が登場した。1990年代初頭の「シャトル2」、半ばの「デルタ・クリッパー」、90年代末の「ヴェンチャースター」――しかしすべて失敗か中止の運命をたどり、シャトルは使い続けられたのだ。

●新規開発か、それとも

 今後アメリカは、どのようにして宇宙輸送システムを立て直すことになるのだろうか。

 まずは、残ったシャトルの運用を国際宇宙ステーションへの往復に限定しつつ、まったく新しいスジの良い宇宙船を開発することが考えられる。この場合、開発期間をそんなにかけられないので、新しい宇宙船は極力保守的な設計を採用するだろう。NASAのオキーフ長官は事故直前の段階で、「デルタ」や「アトラス」のような使い捨てロケットの先端に有人打ち上げに特化した小型シャトルを搭載するシステムを開発する意向を示していたという。そのような新型機の開発に進む可能性は小さくない。

 しかし一方で、徹底的な改修をシャトルに施してあくまでシャトルを運航することも考えられる。NASAだけではなくアメリカの国民感情として、アメリカの象徴の一つであるシャトルを失敗作と認めることに、耐えられないかも知れないからだ。

 現状ではアメリカが次の一手をどのように打つかは、まったく予測できない。おそらくアメリカ自身も分かってはいないのではないだろうか。

■筆者:松浦 晋也=ノンフィクション・ライター。1962年、東京都出身。日経BP社
記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。
著書に「H-IIロケット上昇」(日経BP社)